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胃腸科について
胃腸科とは内科の中で、ある特定の臓器に絞って診療する科です。胃腸科は食べ物が通っていくところ、具体的には食道・胃・小腸・大腸を対象としています。比較として、消化器内科は胃腸科が担当する部位に加えて、消化に関連した臓器、消化液を作ったり溜めておく肝臓や胆のう、膵臓も対象としています。胃腸科で担当するのは食道・胃・小腸・大腸ですから、主たる病気は次のようなものがあります。
食道の病気は食道がん、逆流性食道炎などがあります。症状としては食事が胸でつかえる感じや胸やけなどがあれば食道の病気を疑います。
胃の病気は胃がん、胃潰瘍、胃ポリープ、胃炎、ヘリコバクター・ピロリ菌感染などがあります。上腹部の痛みや胃もたれといった症状は胃の病気を疑います。
小腸は小腸の腫瘍や小腸の出血があります。十二指腸も小腸に含まれるため十二指腸潰瘍も含まれます。小腸は細くて長く、6mから7mあります。お腹全体に収まっているため、お腹のどの部位でも症状が出る可能性があります。
大腸の病気は大腸がん、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患、過敏性腸症候群などがあります。便秘や下痢、下血(便に混じった出血)といった症状があった場合に大腸の病気を疑います。
この様な病気のため、胃腸科の主たる検査は内視鏡検査です。小腸は十二指腸以外、検査のしづらい部分であり、通常病気の部位がわからない場合は胃や大腸の検査を行い、異常がない場合に小腸検査が検討されます。当クリニックの専門領域の1つに内視鏡検査があります。病院など複数の医師で専門領域別で診療している場合、内視鏡を扱うのは消化器内科か外科(一般・消化器外科)です。当クリニックは基本的に、胃腸科として受診する患者さんより、痔以外の下血の鑑別としての大腸内視鏡検査や紹介による胃や大腸の内視鏡検査が多いのですが、内視鏡検査を受けた患者さんは必要があれば、胃腸科としての継続的投薬治療を受けています。しかしながら、胃腸科として受診して良いとは知らなかったなど聞く事が比較的高頻度にありますが、内視鏡検査するしないに関わらず、いわゆる胃腸科としても診療しています。
おしりのための注意点
痔は排便を中心とした生活習慣病の一つです。正しい生活習慣を身につける事は痔を予防したり、あるいは悪化させないために重要です。この習慣は手術後の患者さんにとっても重要です。
排便のポイント
★便意を感じたときに排便しましょう。我慢すると便秘をまねきます。便秘の予防については「便秘について」をご覧ください。
★排便時間が痔をつくる時間とも言われています。長くても3分以内にしましょう。完全に出し切ろうと必要以上にいきまないようにしましょう。残便感があるため時間がかかるという患者さんも多いのですが、実際に残便がある場合と、痔(内痔核)があるため残便のように感じてしまう場合があります。後者の場合、内痔核を縮小させれば症状も消失します。通常、痛みが少ないゴム結紮術という方法で治療できます。
★排便後はウォシュレットなどで洗って清潔にしましょう。携帯用の肛門洗浄器もあります。清潔を過剰に考え、石鹸などを使用すると皮膚炎の原因になることがあります。
食事のポイント
★食物繊維をしっかりとりましょう。食物繊維は腸内で水分を吸収して膨らみ、便の量を増やして軟らかくし、腸のぜん動運動を高めます。1日20~25gの食物繊維摂取が推奨されています。食物繊維を多く含む食品(食品100g中に含まれる食物繊維の量)の代表例は大豆7g、干ししたけ7.5g、ブロッコリー3.7g、さつまいも3.8g、わかめ3.6g、納豆6.7g、ごぼう6.1g、切り干し大根20.7gなどです。
★十分な水分をとりましょう。
★朝食をしっかりとりましょう。食事は胃腸の活動を活発にして便意を起こさせます。冷たい水や牛乳だけでも同様の効果があります。
★下痢気味の方は消化の良い食事をとりましょう。おしりには便秘も良くないのですが下痢も良くありません。
★アルコール類、香辛料を控えましょう。肛門を刺激したり、うっ血させたりして、痔を悪化させます。
その他のポイント
★適度な運動をしましょう。腸の動きを活発にし、排便をスムーズにします。また、同じ姿勢をとり続けないようにもしましょう。長く座ったままの仕事や長時間の運転も痔を悪化させます。
★毎日お風呂に入り温めましょう。冷えは血行が悪くなり、肛門の循環不全を招きます。
上記の生活習慣の改善が痔の治療の基本です。それでも悪化した時は早めに急性期を治療し(その治療の中心は軟膏です)、大事に至らせないことが重要です。そのような管理をしていけば手術に至ることは少ない疾患です。ただし痔にもいろいろありますので、適切な治療のためにも早めの受診をお勧めします。
便秘について
便秘は痔の大敵。ひと言に“便秘”といっても、人により、排便の回数が少ない、便が硬い、便の量が少ない、便が出にくい、おなかが張る、残便感がある等いろいろです。通常は生活習慣の改善や緩下剤で改善しますが、50歳前後以上で急に起こった便秘は要注意です。大腸がんの可能性があるからです。一般に正常の排便回数は3日に1回から1日に3回までといわれており、排便は3日に1回以上あれば正常とされています。毎日1回の排便がなくても、おなかが張って苦しいようなことがなければ問題ありません。むしろ、毎日の排便のために、センナ等の刺激性の緩下剤を毎日服用すると、次第に薬の効果が少なくなり、必要な薬の量が多くなり、腹痛等も起こってきます。便秘治療を考える場合、まずはじめに、誤った知識や習慣を改めてから始めましょう。これだけで80%以上の人に改善があります。
- まず、水を十分に飲む。緑茶やコーヒー、紅茶等の飲み物は利尿作用(おしっこをたくさん出す)のある成分を含み、便秘にはよくありません。せっかく飲んだ水分の多くが尿となってしまい、大腸は乾いて便が肛門に向かって移動しにくくなり、しかも便は硬くなってしまいます。典型的にはヤギやウサギの便のように小さくて硬い、コロコロとした便となってしまいます。水、お湯、麦茶、ジュース、牛乳、スポーツドリンクなどを1日1.5~2リットルくらい飲むことが理想的です。ただし、ジュースなどは糖分の問題もあり、やはり水が一番ということになります。これだけでかなりの人が改善します。
- 食物繊維を十分に摂る。便の量が多い方が、一般には便秘になりにくいのです。食物繊維は食べても胃腸から吸収されず、便となって排泄されます。食物繊維を十分に摂らないと、腸の動き(蠕動運動)が悪くなってしまい、便秘となります。
- 朝起きたら、朝食を食べる。あるいは水分(この場合は緑茶やコーヒー、紅茶でもよい)を飲む。胃に食べ物が入ると胃結腸反射というものが起こり、腸が活発に動くようになります。
- 便意があったら、早くトイレに行く。せっかくの便意も我慢してしまうと消失してしまい、排便のチャンスを失い、便秘になりやすくなります。
- 軽い運動をする。
- 刺激性の緩下剤の服用は、なるべく週に1~2回までとする。刺激性の緩下剤を毎日服用すると、次第に効果が少なくなり、必要な薬の量も多くなり、腹痛等も起こってきます。これで不十分な場合は医師に相談してみてはどうでしょうか。
慢性便秘も急性便秘も、症候性(大腸がんなどにより、腸の内腔が狭くなり(狭窄)、急に便秘となる)以外のものでは水の摂取不足のことが多く、まずはじめに水を十分に摂ることが大切です。
便秘のタイプ(痙攣性、弛緩性、直腸性、症候性、一過性単純性など)もいろいろあり、便秘の薬もまたいろいろあります。薬を使用する場合、便秘のタイプにあった薬の選択が必要ですので、漫然と市販薬を服用するのではなく、受診をお勧めします。ちなみに、一般薬として市販されている下剤のほとんどが、刺激性下剤です。
女性と痔
昔から男性に多いと思われていた病気「痔」。しかしながら実は多くの女性もこの「痔」に悩まされている現状があります。当クリニックでも肛門関係の受診患者さんの60%近くが女性です。「痔」の中でも女性に多いものは、痔核(イボ痔)、裂肛(キレ痔)です。男性に比べ、女性の方が「痔」になりやすい原因(便秘、妊娠、冷え性など)を多く持っています。
「痔」だとは思うけど・・・。ただ、痔はどうしても恥ずかしいし・・・。受診する決心がなかなか・・・。受診した女性患者さんのほとんどがこのように話します。また、男性患者さんと一緒では受診しにくいと感じる患者さんも多く、その場合は当クリニックではレディースタイム(木曜14:00~15:00)を受診されています。
便秘は圧倒的に女性の方が多い症状です。というのも、ダイエットによる食物繊維の不足、便意の我慢、妊娠、女性ホルモンの影響など・・・。便秘の場合の便は硬いものが多く、これが肛門を傷つけ裂肛(キレ痔)の原因となったり、いきみ等でうっ血して痔核(イボ痔)の原因になることがあります。
妊娠中は子宮が大きくなり、骨盤内を占拠するため肛門の血液循環が圧迫されます。そのため血流が悪くなり、ホルモンの影響もあり便秘にもなり、うっ血・・・。そして痔に。
それともう1つ。女性に限ったことではありませんが、肛門からの出血には大腸がんなどの命にかかわる病気の存在もあります。
厚生労働省の平成14年度患者調査などによる女性の「痔」の実態を簡単に発表します。
★女性の3人に1人は「痔」経験者。20代~40代までの女性で痔の経験者は34.5%
女性の身体の悩みといえば、肩こり、便秘、冷え症などが一般的に知られていますが、現代女性の3割以上の人が「痔」の経験者です。これは「ドライアイ」(37.0%)とほぼ同様の経験率です。これまで、「痔」は男性の病気というイメージが一般的ですが、女性も同様に抱えている身体の悩みであることがうかがえます。こんなに多い疾患ですから、恥ずかしがらず気軽に受診してください。なお、厚生労働省の平成14年度患者調査では、医療機関での診察を受けた痔疾患者のうち45%が女性という結果が発表されています。
★女性は痔の症状があっても「何も対処しない」が34.5%でトップ
現在も痔の症状を自覚している女性に対処法を聞いたところ、「何もしない」が34.5%でトップでした。「市販薬を使う」は33.1%、「病院へ行く」はわずかに4.7%でした。特に20代では約39.1%が「何もしない」と答えています。「痔」にもいろいろあります。自己診断せず適切な診断・治療を受けることが大事に至らせない方法です。
★20代の女性の痔は慢性化・深刻化の傾向あり
「現在も痔がある」と答えた人は、30代56.1%、40代55.4%に対して、20代女性では66.3%。悩みの度合いも、20代では「非常に悩んでいる」「やや悩んでいる」と答えた人を合わせると53.6%と高く、30代では46.7%、40代では42.6%という結果でした。当クリニックでも20代の女性は受診に対する抵抗感が強い印象を受けます。そのため程度がひどくなり手術となる患者さんも比較的多い状況です。やはり、大事に至る前の受診が重要です。
★1年以内に出産を経験した女性の5割以上が痔を経験
1年以内に出産を経験した女性の痔の経験は54.8%、というアンケート回答が得られました。一度も出産したことがない女性の痔の経験率は27.8%であることから、女性の痔は出産と深く関連していることがうかがえます。今後妊娠、出産を予定しているので、そのためにも治したいと希望する患者さんも当クリニックでは最近多い状況です。
以上、女性と「痔」について記載しましたが、多くの人が患ってる疾患であり、恥ずかしがらず受診することが正しい方法ということになります。
直腸肛門部の性行為感染症
わが国における直腸肛門部の性行為感染症(性行為感染症とは性的接触によって感染する疾患の総称です。英語のSexually-Transmitted-Diseasesを略してSTDとも言います)の頻度は、痔核や痔瘻、裂肛に比べ多くはありませんが、最近は増加傾向にあります。厚生労働省の統計では、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、HIV感染が増加し、30歳代以下の若年者においては女性に多く、それ以降の年齢では男性が多いなど、性活動の低年齢化、性行為の多様化、複数パートナーまたは不特定多数との接触などの社会的背景が影響していると考えられています。パートナーとの問題もあるので、性行為感染症は、正しい知識を持ち予防に努めるとともに、もしもかかった場合には早期に適切な治療を受けることが重要です。
真菌症
肛門周囲皮膚に限局した強い掻痒感があります。擦過によりびらんを生じて分泌物や出血を伴うこともあります。ステロイド含有剤の使用や、女性ではカンジタ膣炎も関与します。抗真菌薬の局所投与で治癒することが多いです。患部の過剰洗浄などが増悪の原因となってる場合もあります。
尖圭コンジローム
肛門周囲に2~3mmのイボが多発(たくさんできる)します。肛門上皮や直腸粘膜におよぶこともあり、時に陰嚢・陰茎や女性の陰唇・膣にまで拡がることもあります。症状は、かゆみ、浸出液、排便後紙でふいた時の出血等です。原因は乳頭ウイルスの感染で、とくに男性同性愛者に多く見られます。乳頭ウイルスは発がん機構にも関与しています。放置すると、病変が拡がるため、早期に治療することが大切です。治療は切除が中心です。なお、再発がしばしば見られるので厳重な経過観察が必要です。
ヘルペス
初感染者は強い疼痛、多発性の水泡、浅い潰瘍を形成します。再燃は風邪や過労などの誘因で生じ、症状は軽度で限局性の水泡やびらんがみられる程度です。治療はステロイド含有剤の使用の中止、抗ウイルス剤の投与です。
アメーバ赤痢
粘血便や肛門出血を訴え、腹痛や発熱を伴う下痢を認めることも多いです。とくに男性同性愛者に多く見られます。内視鏡では多発性の潰瘍を認めます。確定診断は生検組織内の虫体の証明です。治療は内服薬が著効を示します。
扁平コンジローマ
乳白色から淡紅色の扁平な隆起性病変で梅毒の肛門病変です。近年、減少してますがAIDSの日和見感染症としてみられることがあります。治療は内服療法で1~3週後に消失します。
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する治療が保険適用に
ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)に起因した慢性胃炎の患者さんに対しても除菌療法が平成25年2月より保険適用となりました。今までは、胃・十二指腸潰瘍、早期胃がんに対する内視鏡的治療後などに対しての除菌療法は保険適用でしたが、慢性胃炎は適用外でした。しかしながら、ピロリ菌感染による慢性胃炎が胃がんの多くの発生原因であることから、保険適用が拡大されたのです。除菌を行うことで胃がんになる危険性を3分の1程度にまで下げることが可能と考えられています。ただし、保険による除菌を行う際には、ピロリ菌が陽性(内視鏡下生検検査以外にも尿素呼気テストなど診断法があります)であることおよび内視鏡検査によりピロリ菌感染胃炎であることを確認することの両方の実施が必要です。要は、ピロリ菌とピロリ菌に起因していると考えられる慢性胃炎の診断が決定された患者さんにのみ、その除菌に対する治療および効果判定が、保険適用になりました。1次除菌では不成功で2次除菌を行うこともありますが、2次除菌までが保険適用です。なお、除菌治療は発がん予防という点では有益ですが、リスクをゼロにすることはできないので、除菌したからといって胃がんの心配がないということはありません。除菌後に内視鏡検査を受けず、胃がんの発見が遅れてしまっては除菌の意味がありません。定期的な内視鏡検査は除菌の有無に関わらず重要であることは変わりありません。
炎症性腸疾患とは・・・
長期に下痢、血便が続く原因不明の難病です。通常の食中毒などと異なり、数日でよくなりことはなく長期にわたり(多くは一生涯)、よくなったり悪くなったりしながら症状が続きます。具体的には「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」があります。適切な治療をおこなえば通常の生活をおこなえますが残念ながら完全に治ることはありません。厚生労働省の特定疾患に指定されている疾患です。命を落とすことはありませんが、生活が大きく病気のために犠牲になるのがこの病気の特徴です(特に若い患者さんで深刻です)。近年、この両疾患は増加しており、当クリニックでも診断率が増加しています。
腸の炎症性疾患には原因不明の潰瘍性大腸炎やクローン病、感染症腸炎(細菌、ウイルス、真菌、寄生虫による)、薬剤性腸炎(抗生剤等による)、虚血性大腸炎(血流障害:腸へ流れ込む血液の不足)等があります。
日本で「炎症性腸疾患」というと、上のすべての腸の炎症性疾患が含まれますが、米国では「炎症性腸疾患:Inflammatory Bowel Disease(IBD)」は、潰瘍性大腸炎とクローン病のみを指します。
潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis)
下痢と血便を症状とし、粘液と血液の混ざった粘血便となります。原因不明で、はじめ直腸に起こった炎症が、大腸全体に広がっていきます。発熱や貧血もみられることがあり、早期に適切な治療が必要です。全大腸を冒すもので、10年以上の経過をもつものでは、まれにがんを発生することがあります。治療は内服薬や座剤で、軽症のうちに治療を受ければ症状が消えますが、全大腸型では再発を繰り返しやすく、重症例では絶食、高カロリー輸液、手術(大腸切除術)等が必要となります。わが国の潰瘍性大腸炎の患者数は、77,073人(平成14年度特定疾患医療受給者証交付件数より)と報告されており、毎年おおよそ5,000人増加しています。米国の100万人と言われている患者数に比べると10分の1以下です。
クローン病(Crohn’s Disease)
下痢、血便、腹痛を症状とする慢性の病気で約3/4に痔疾患を認めます。原因不明で潰瘍性大腸炎と似た症状ですが、クローン病による炎症病変は大腸のほかに小腸にも発生し、大腸に病変の限局した(大腸だけに病変が現れる)潰瘍性大腸炎とは区別されます。炎症の結果、腸が細くなったり(狭窄)、腸に穴が開いたり(穿孔)することがあり、この場合は手術が必要です。治療は内服薬が基本ですが、重症になると絶食、高カロリー輸液、手術が必要です。クローン病は、日本では1940年ごろから「非特異的限局性腸炎」として紹介されたものの、まれな病気として一般にはあまり知られていませんでした。1975年に旧厚生労働省の研究班が発足し、クローン病の診断基準が作成され、全国調査が行われるようになりました。クローン病の患者数の推移を医療受給者証交付件数でみると1976年には128件でしたが、その後増加し続け、近年では毎年1,500人前後の増加がみられ、2004年度には23,188人の患者さんが登録されています。したがって人口10万人あたり約18.3人のクローン病患者さんがいることになりますが、欧米に比べると10分の1前後です。
腸結核
症状のないことが多く、大腸の検査で偶然に見つかることが多い疾患です。現在ではまれな病気ですが、肺結核が多かったころは腸結核も多く見られました。治療は結核治療のための内服薬を1~2年服用します。
感染性大腸炎
細菌、ウイルスにより発生する腸炎です。原因となる細菌は赤痢(細菌性、アメーバ性)、サルモネラ、腸炎ビブリオ、病原大腸菌、カンピロバクター、クレブシュラなどです。病状は下痢、腹痛、発熱、嘔吐、血便などで、便培養検査により原因菌を確認します。治療は輸液、抗生剤などの服用です。ウイルスの場合はロタウイルスなどにより発生します。
抗生物質起因性腸炎
抗生物質の使用により、クロストリジウム・デフィシルをはじめとする菌が異常増殖して発生する大腸炎で、偽膜性腸炎、出血性腸炎などがあります。下痢、腹痛、発熱、血便があり、原因となる抗生剤をすぐに中止し、輸液や内服薬による治療が必要です。
虚血性大腸炎
大腸に酸素や栄養を供給している結腸動脈の血流が悪くなって、大腸の血流不足(虚血)により起こる大腸炎です。動脈硬化、高血圧、心臓病による血流障害や便秘などによる腸管内圧の上昇も原因となり得ます。最近では、若い女性の避妊薬服用によって起こる虚血性大腸炎もあると考えられ注目されています。症状は突然の腹痛(とくに腹部の左側~下腹部)、下痢、下血です。通常は輸液と内服薬、安静による治療で症状が治まります。
直腸孤立性潰瘍症候群
排便時の過度の“いきみ”により直腸粘膜の脱出と虚血(血流不足)がおき、直腸粘膜の発赤や潰瘍が発生します。潰瘍は直腸の前壁~側壁に発生することが多く、一般に若年層に多く見られます。直腸粘膜脱症候群 (mucosal prolapse syndrome-MPS)と呼ばれることもあります。症状は出血、粘液分泌、排便困難で、治療は排便習慣の改善(過度のいきみを控え、短時間(約5分以内)で排便を終了する)や、高繊維食の摂取、緩下剤の服用です。
大腸憩室炎
大腸憩室に起こる炎症を、大腸憩室炎といいます。大腸の憩室とは、大腸粘膜が腸管壁の筋層を貫いて外部に突出し、袋状になったものです。大腸憩室の大部分は後天的に発生するもので、当然高齢者ほど頻度が高く、80歳以上では75%に憩室があるといわれています。憩室があっても、炎症等が起こらなければ症状はありません。大腸憩室炎では腹痛、発熱や多量の出血が起こることがあり、右側の大腸の憩室炎は時に虫垂炎(俗にモウチョウ炎といわれている)と間違えられることもあります。治療は抗生剤、輸液、絶食等ですが、出血の強いものでは腸切除を行うこともあります。
機能性胃腸症とは?
機能性胃腸症とは胃潰瘍や胃がんなど器質的疾患がないのに、胃痛、胃のもたれ感、膨満感、食欲不振、むかつき、むねやけを症状とする疾患です。
日本人の4人に1人がこの病気であると言われています。機能性胃腸症は今まで、慢性胃炎や神経性胃炎などといわれてきました。胃でも腸でも症状がある場合、検査をすればその症状の元になる器質的疾患が見つかるはずだと考えておられる方が多いと思います。ところが、実際には胃腸の機能異常による機能的疾患が60%以上であるとされています。おもに下記の3つのタイプに分類されます。
- 運動不全型
胃の運動機能が低下し、食べ物を消化する速度が遅くなって、「もたれる」という症状が起こると考えられます。 - 潰瘍症状型
胃酸の出過ぎによって痛みが起こると考えられます。 - 逆流症状型
胃酸が食道に逆流することによって起こるもので、「逆流症」とも呼ばれます。最大の原因は、食べ過ぎです。また、前かがみの姿勢を長時間とったり、食後、すぐ横になることなども胃酸の逆流の原因になります。
機能性消化管障害の国際的な診断基準であるRome基準というものがあり、下記のような内容です。
Rome基準による診断基準
6カ月以上前から症状があり、最近3カ月間は下記の基準をみたしていること
(1)以下の項目が1つ以上あること
- 辛いと感じる食後のもたれ感
- 早期飽満感
- 心窩部痛
- 心下部灼熱感
および
(2)症状の原因となりそうな器質的疾患(上部内視鏡検査)が確認されない
診断は上部内視鏡検査などによって、がんや潰瘍などの器質的疾患がないことを確認することが重要です。器質的疾患が否定されたら、治療へと進みます。機能性胃腸症は、その人の性格や生活スタイル、食事内容など、さまざまな要因が重なって症状を引きおこしますので、総合的に治療していきます。
- 生活指導
生活面では、十分な睡眠、規則正しい生活、ストレスをためない事を心掛けましょう。 - 食事療法
食事は1日3回規則正しく、よく噛んでゆっくり食べる。空腹の時間帯を作り、胃腸を休める。暴飲暴食をしない。脂肪の多い食事、香辛料、甘味和菓子、たばこ、アルコールを控える、などが大切です。 - 薬による治療
潰瘍型であればH2受容体拮抗剤やプロトンポンプ阻害剤といわれる酸分泌抑制剤を使用します。胃もたれが強いときは消化管運動改善薬を用います。また、非特異型は精神的な要因が強い場合は軽い抗うつ薬や抗不安薬を使います。
ストレス社会を反映し機能性胃腸症や過敏性大腸症(大腸における機能性消化管障害)は多くみられます。
過敏性腸症候群について
成人の5人に1人が過敏性腸症候群といわれており、最も日常的な病気の1つです。しかし、その兆候や症状について他人に話をしにくいこともあり、受診をためらっている患者さんが多い病気です。過敏性腸症候群は、主として大腸の運動および分泌機能の異常で起こる病気の総称で、胃腸の検査をしても原因となる病気がみつからないのに、精神的ストレスなどの刺激に対して腸が過敏な状態になり、下痢や便秘などの症状が繰り返し起こります。仕事や人間関係の悩みが多い現代社会では急増中の、一種の文明病です。
原因としてストレスが考えられています。現代人にとってストレスは避けられないもの。うまく処理できれば問題ないのですが、心の中にため込んでしまうと自律神経のバランスが乱れ、排便のメカニズムがくずれて過敏性腸症候群を引き起こします。「腹がたつ」「はらわたが煮えくりかえる」など、胃腸と感情との関わりは深く、心の鏡といわれます。つまり、胃腸はストレスのダメージを非常に受けやすい臓器なのです。大きな不幸がふりかかると一晩で胃潰瘍になって吐血する、というケースもあります。大腸のダメージは胃ほど急激には起こりませんが、ストレスが重なると過敏性腸症候群が起こります。かかりやすい性格はまじめな人、気が弱い人、うつ傾向の人は要注意で、過敏性腸症候群になる人はもともと精神的なストレスに弱い性格の人が多く、過敏性腸症候群と性格は深く関わっていることが明らかになっています。
症状は、会社が休みの日や遊んでいるときなどにはあまり症状が出ず、ストレスの多い時期になると症状が強くなる傾向にあります。下痢型、便秘型、下痢と便秘を繰り返す交代型(混合型)があり、痙攣痛を伴うものもあります。いずれにしても、排便異常を来たす疾患のため、肛門疾患(いわゆる痔)を併発する患者さんも多いのです。また、これらの排便異常が、他の疾患が原因(大腸がんや炎症性腸疾患など)のこともあり、鑑別のため内視鏡検査を行ったほうがいいケースもあります。
治療の主軸となるのが、生活習慣と食事の改善です。病気について心配しすぎないようにし、まずは、規則正しい生活を送るなど、健康人としての生活習慣を身につけます。過敏性腸症候群の人は、もともと神経質であれこれ思い悩むことが多く、「あれは食べない方がいい」「これは症状を悪化させる」などとアドバイスすると気にしすぎて、楽しく食事ができなくなってしまうようです。「冷たいものを飲んだ後、下痢がひどくなる」など、症状を悪化させる食べ物については、体験的に覚えているケースが多く、「その食べ物はできるだけ避ける」程度に気楽に考えましょう。ただし、偏った食生活は過敏性腸症候群の人に限らず、便通異常の原因となりますから禁物です。次のような点に気をつけ規則正しい食事を心がけましょう。①アルコールはストレス解消や血行促進の効果があるので、適量を守れば飲んでも構いません。ただし、冷たいビールで下痢しやすい人はウイスキーや焼酎のお湯割りにするなどの工夫をしましょう。②内容に神経質になるより楽しい食事を心がける。③暴飲暴食は避け、腹八分を習慣にする。④外食やインスタント食品やファーストフードなどは脂肪や炭水化物が多い割に、ビタミン類や食物繊維が不足するため、できるだけ避ける。⑤水分不足は便秘の原因となるため、水分を十分に摂る。また、ストレスをためない生活法は、何がストレスの原因になっているかを突き止め、つらいことから目をそむけるのではなく、積極的にストレスを管理するよう心がけましょう。家庭内や仕事上のトラブルは逃げようとすればするほど、心の重圧感は大きくなります。「適度なストレスは心身ともに緊張感を与え、生活の刺激になる」とプラス思考でとらえ、自分なりのコントロール法を見つけてください。また、自分自身の生活を客観的に観察してみると、自分でストレスを作り出していることに気づくケースも多いはずです。性格を完全に変えることはできませんが、性格上の問題を認識し、できるだけ気持ちの持ちようを変えるなどの努力をしましょう。ストレスに強くなるには、心身の健康を高めることが何より大切です。心身のどちらかに偏らず、たとえば、普段、デスクワークで疲れている人は休日には積極的に体を動かしたり、あまり読まないジャンルの本を読むなど、気分をリフレッシュすることを心がけてください。日常生活にメリハリをつけ、心に柔軟性をもたせることも有効です。生活習慣を見直しても、腸の状態が改善されない場合は薬物療法が有効です。腸の運動を調整する腸運動調整薬や鎮痙薬が中心となります。肛門疾患を併発している患者さんは、肛門疾患と同時に過敏性腸症候群の治療が重要です。